世界中で愛飲されるコーヒー。さまざまな産地を冠した名前が多くありますが、コーヒーベルトと呼ばれるコーヒー栽培に適した地域があることをご存知でしょうか。今回は、コーヒーベルトの説明や有名産地への伝播、日本でのコーヒー栽培事情と必要な条件をご紹介します。
1.コーヒーベルトとは?
コーヒーベルトという言葉を耳にしたことがある人も多いでしょう。コーヒーの栽培に向いている地帯を言いますが、世界のどこなのか、そもそもコーヒーはどこで生まれたのか。コーヒーベルトやその歴史について紹介します。
コーヒーベルトは赤道を挟んで南北25度
コーヒーベルトとはコーヒーの栽培に適した地帯のことで、赤道を挟んで北緯25度から南緯25度までの一帯をさし、コーヒーゾーンとも呼ばれます。コーヒーの主要な産地のほとんどがこの一帯にある国です。地球温暖化の影響を受けてこの範囲が広まっているともいわれています。コーヒーの主要な産地は次のとおりです。
・中南米
グアテマラ コスタリカ ジャマイカ ブラジル コロンビア ペルーなど
・アフリカ
タンザニア ケニア ルワンダ エチオピアなど
・アジア
ベトナム インドネシア など
コーヒーの木はコーヒーベルトにもともとあった?
今では多くの産地があるコーヒーですが、初めから世界に広く分布していたわけではありません。コーヒーの木が最初に発見されたのはアフリカのアビシニア、現在のエチオピアとされています。コーヒーの発見・発祥には諸説あり、正確な土地や年代は定かではありません。
エチオピアで発見されたコーヒーは、6~9世紀にアラビア半島南端のイエメンに伝わりました。コーヒーの栽培やコーヒーの伝播はエチオピア、そしてアラビア半島から広がっていったのです。コーヒーのアラビカ種は、その名がアラビアに由来しているという説もあります。
長らく地域限定の栽培だったコーヒーは、1600年代中頃からスリランカやインドでも栽培され始め、1700年頃に東インド会社によって苗木がジャワ島へ運ばれ定着するなどし、栽培地域を拡大していきました。
2.コーヒーベルトと日本
コーヒーベルトは、赤道を真ん中にした南北の緯度25度までの範囲です。日本はその範囲から大きく外れているように思われますが、日本でもコーヒー栽培を営んでいる地域があります。コーヒーベルトと日本の位置関係や、日本へのコーヒーの伝播を紹介します。
コーヒーベルトと日本の位置関係
日本の緯度はだいたい北緯20度から46度の間です。南側の北緯約20~25度は、コーヒーベルトに含まれる地帯ということになります。南というと沖縄県かな?と考えそうですが、那覇市の北緯は26度なのでギリギリ範囲内ではありません。
具体的には、沖縄県の石垣島や宮古島(北緯24度)、東京都の小笠原諸島(北緯20度~)が、コーヒーベルトに含まれる日本の地域です。
日本へのコーヒーの伝播
日本で最初にコーヒーを飲んだのは、江戸時代後期の長崎出島の人々とされています。明治に入りゆっくりとですが一部の上流階級に広まり、公式の記録としては1877年(明治10年)にコーヒー豆の輸入が開始されました。その翌年の1878年(明治11年)、小笠原島で日本初のコーヒー栽培が試みられます。4年後に収穫があったものの、継続的な栽培の定着には至りませんでした。
コーヒーの栽培は日本では本格化しませんでしたが、飲料としてのコーヒーはどんどん普及し、昭和初期にはコーヒーを楽しむためのカフェが東京に7,000軒も存在したとされます。コロンビアやブルーマウンテンなど輸入するコーヒー豆の種類も増加します。戦時中にはコーヒーへの課税や輸入停止などがあり一時貴重な飲み物になりますが、戦後の輸入再開とともに次第に供給されるようになりました。昭和中期の1960年には、それまで輸入がほとんどだったインスタントコーヒーを国内メーカーでも製造を開始し、さらなるコーヒーブームを作り出しました。
日本でのコーヒー栽培の現状
明治初期のコーヒー栽培は失敗に終わった日本ですが、現在はコーヒー農園が存在する地域もあります。沖縄県本島や石垣島、鹿児島県徳之島、小笠原諸島の父島などでコーヒー農園が運営され、コーヒー栽培がされています。
しかし、コーヒーの栽培には日照雨量などさまざまな条件が必要であり、乾季と雨季ではなく四季があって台風が多い日本では大規模な栽培には至っていません。市場に出回る量は少ないですが、農園から取り寄せたり直接訪れたりして国産コーヒーを楽しむことができますよ。
3.コーヒーの栽培に必要な条件は?
コーヒーベルトでのコーヒー栽培や日本国内での栽培の難しさを考えると、そこには自ずと共通点が浮かび上がってきます。それはそのまま、コーヒーノキの育成に必要な条件になります。反対にいえば、コーヒーベルト以外の地域でもこの条件をクリアできれば栽培が可能になるということです。実際にビニールハウスでコーヒー栽培をしている個人農園もあるようです。コーヒー栽培に必要な環境条件を紹介します。
土壌や肥料
土壌は、肥沃さや水はけの良さ、耕しやすさなどが求められます。さらに、アラビカ種の栽培には弱酸性の土壌が望ましいとされます。
生長に必要な炭素や酸素、水素は空気や水から吸収し、土壌にない成分は肥料などによって補います。窒素やリン、カリウムを過不足なく与えることが重要であり、重要視されるのはこれらの成分を多く含む腐植土の量です。そのほか、火山灰質の土壌もこれらの成分を豊富に含みつつ水はけが良くて、コーヒーの栽培に適していると考えられています。
気温
コーヒー栽培における日中の適した気温は、アラビカ種が平均18~22℃、カネフォラ種(1900年前後に普及され出したコーヒー種)が平均22~28℃とされます。果実の熟成のために適温が大切であり、高すぎても低すぎてもいけません。また、コーヒーノキは寒さに弱く、低温が続くと枯れてしまう場合もあります。実際に小笠原での栽培が定着しなかったのにも、冷害が一因にあると考えられています。さらに昼と夜の温度差が大きいことも大切な条件です。
日照
日照時間もまた、適度な量・時間が求められます。いつも日照りが望ましいということはなく、日照量が多すぎるとコーヒーノキへのダメージとなり収穫量が減少してしまいます。
ここで重要なのが、シェードツリーの存在です。シェードツリーとは、コーヒーの栽培地でよく見られるコーヒーノキのそばにある背の高い木のこと。シェードツリーが日傘のような役割を果たし、適度な日照量の調整や温度差の緩和、防風、侵食防止に低肥料化と、さまざまな役割を担います。
雨量
日照、つまり太陽と同じくらい雨も大切です。アラビカ種の場合は年間降水量1,400~2,000mm、カネフォラ種の場合は2,000~2,500mm程度が必要とされます。
必要以上の雨量はすなわち日照量の減少を意味し、多湿になって水はけも悪くなるので多すぎてはいけません。反対に雨が少なすぎると栄養が不足し生長できず灌漑が必要となります。
日本のような四季ではなく、乾季と雨季があると良いとされます。
害虫などの予防
どれだけ土壌などの環境を整えても、葉や幹を冒す害虫は発生します。その対策は必要不可欠で、かなりのコストがかかります。過去にはセイロンという土地のコーヒー栽培をさび病という病気が壊滅させたこともあります。
土壌の改良や湿度、肥料の調整によって害虫の予防を行います。枯れ枝や病害虫に冒された枝をすぐに取り除くことも欠かせません。
このように、環境の条件とあわせて継続的な環境の維持、害虫の予防がコーヒー栽培の重要な要素です。
4.コーヒーベルトの歴史を感じながら味わうコーヒーの深み
普段何気なく飲んでいるコーヒーですが、そのほとんどがはるか遠い異国の大地で栽培され、海を渡ってやってきます。コーヒーベルトにてコーヒーノキを育て、生豆から美味しいコーヒーを生み出し、それを運ぶ人がいる。その過程を思うと、コーヒーの味わいもさらに奥深さが増しますね。手にとったコーヒー豆がどこからやってきたのかを考えながら選ぶのも楽しいかも知れません。コーヒーの歴史ロマンを感じながら、香り豊かなコーヒータイムを過ごしましょう。