遠いエチオピアやブラジルなどのコーヒー生産国からやってくるコーヒー豆。その多くが発展途上国です。コーヒーの生産者は厳しい労働を強いられながらも貧困であることが、たびたび問題視されてきました。そこでキーワードとなるのが、フェアトレードです。今回はフェアトレードコーヒーの概念や認証、その意義について紹介します。
1.フェアトレードコーヒーの概念について
コーヒー豆の多くの取引の構図が、生産する途上国と購入する先進国。コーヒーは貿易で取引されますが、フェアでなければ生産者を苦しめることになってしまいます。フェアトレードの概念をチェックしていきましょう。
フェアトレードという理念について
フェアトレードは直訳で、公正公平な貿易取引を指します。発展途上国で生産、製造された商品について継続して適正な価格での取引を行い、生産者の生活水準や地位を向上させようとするものです。
コーヒー農場を例にあげると、コーヒー豆約1kgを生産し納めても約40円でしか買い取られないようなケースもあるのが現実です。こうした不適正な価格での取引を是正し、生産者の生活を世界全体で守ろうとしています。
フェアトレードの始まりと浸透
フェアトレードは1960年代にヨーロッパで広まり、世界規模の運動へと発展しました。そのもととなったのは第二次世界大戦後、アメリカの宗教団体やイギリスのNGOが行った支援活動にあるとされており、1950年代にはアメリカに初めてのフェアトレード専門店が誕生しています。
1997年に、国際的なフェアトレードの認証制度を構築するFLO(国際フェアトレードラベル機構)が誕生し、欧米諸国を中心としてますます運動が拡大することとなりました。慈善活動の色合いが強かったフェアトレードは、国際ビジネスの健全性確保へと目的を変えていきます。
さらに2006年、米英合作で「おいしいコーヒーの真実」というドキュメンタリー映画が制作・公開されました。コーヒー生産者の過酷な労働条件を描いており、特に先進国の消費者の意識を変えるきっかけとなりました。
コーヒーだけじゃない。フェアトレードの対象
発展途上国で生産され先進国へと貿易取引によってもたらされる物は、コーヒーだけではありません。他の農産物や生活物資などにも、同じように過酷な労働条件で生きる生産者という背景があり、フェアトレードはそうした幅広いジャンルの生産者の生活水準向上を目的としています。その一例を紹介します。
食品:バナナ、カカオ、紅茶、緑茶、米など
生活用品:コットン、化粧品など
その他:サッカーボール、切り花など
フェアトレードの認証は1つではない
現在、フェアトレード認証の中心となっているのが、ドイツに本部を置く国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)です。それまで各国に存在したさまざまなフェアトレードの推奨団体を統合する形で誕生しました。その国内構成メンバーがフェアトレード・ラベル・ジャパン (FLJ)です。また、フェアトレードの認証について監査やモニタリングを実施する独立機関Flocertが存在します。
国際フェアトレードラベル機構は製品に対してのフェアトレード認証ですが、団体に対してのフェアトレード認証を実施するのが世界フェアトレード機関(WFTO)です。こちらの本部はアメリカにあります。
そのほか、フェアトレード活動が特に活発なイギリスのフェアトレード財団など、20以上の国に認証団体があります。これに加え、フェアトレードの生産者団体も存在します。
2.フェアトレードコーヒーの認証基準は?
ここからは、コーヒーを始めとした対象商品について、フェアトレードの認証を受けるための基準と、それぞれの基準に共通する3つの原則を紹介します。
製品の認証について
まず第一に、フェアトレード認証を受けるためには生産者やトレーダーなど販売にかかる一連のプロセス(サプライチェーン)に関わる組織が、みな国際フェアトレード認証を取得していなくてはなりません。フェアトレード対象地域の生産物であれば必ず製品の認証を受けるわけではないのです。
原料にも規定があります。基本的に原料は認証原材料を使用します。例えばコーヒー豆であれば、90%が認証原材料で10%が非認証原材料のブレンドだと製品の認証は受けられません。製品によっては100%認証原材料を使うことが難しい場合もありますので、その時は例外適用の認証を受けます。
経済的基準
フェアトレードの最大の目的ともいえる最低価格の保証や、奨励金の支給を行う制度の整備が求められます。長期的な取引の継続が大前提であり、必要に応じた前払いも保証しなければなりません。最低金額が保証されていることが、最大の特長といえるでしょう。
フェアトレード最低価格とフェアトレード・プレミアム
最低価格と奨励金について、より詳しく見ていきましょう。
最低価格とは1ポンドあたり140セント。有機認証コーヒーの場合は更に30セント上乗せされます。コーヒーの国際市場価格がどんなに変動しても、またどんなに下落しようとも、最低価格は保証されなければなりません。
このフェアトレード最低価格に加え、1ポンド20セントが輸入業者から生産者組合に支払われるのが、フェアトレード・プレミアム(奨励金)です。生産者組織はこの奨励金を民主的に運用しなければならず、機材の購入だけでなく、地域の学校や病院といった公共施設にも使用されます。これにより生産者が所属する社会全体の生活水準向上につながります。
社会的基準
国際フェアトレードの認証を受けるためには、民主的で公平な運営が求められます。安全性も保証されなければなりません。背景には、これまでの低賃金で過酷な労働の改善があります。そのため、強制労働や児童労働も厳しく禁じているのが特長です。
フェアトレードの現状については生産者組織が適切に賃金を分配せず、結局末端の生産者に正当な利益が行き着かないことが問題視されており、公平な運営は変わらず大きな課題となっています。
環境基準
生産の環境について、農薬や薬品の使用制限や土壌、水源の保護を定めています。廃棄物がきちんと管理され、また再利用も促進されなければなりません。さらに、遺伝子組み換えの作物を禁止しています。
作物にかかる規定だけでなく、健康と安全を守る対策も環境基準の重要な要素です。
フェアトレードコーヒーの認証マーク
基準を満たし認証を受けている商品には、認証マークが表示されます。「FAIRTRADE」と書いてあり消費者もわかりやすいです。認証マークについては前述したとおり認証団体は1つではなく、提携団体や推進団体も存在するのでこの限りではありません。しかし、国際フェアトレードラベル機構に統合の折にラベルも統一され、ほぼこの認証マークとなっています。
認証マークとあわせて、フェアトレードの説明文や認証原材料の含有量などを明記するパッケージ表示が求められます。
3.フェアトレード実施やフェアトレードコーヒーを買う意義
世界的に拡大を見せるフェアトレードの活動。その実施と、私達がフェアトレード商品を購入することには、どのような意義があるのでしょうか。
生産者に安定した生活とその維持を
適正な貿易取引の実施により、生産者が劣悪な条件下での労働を不当に強いられる問題が、解決に向かう点が最大の意義といえます。安定した取引価格の保証により、賃金が保証されて生活水準が向上するほか、設備投資や地域の施設なども充実させられます。
生産者組合の設立と成長
これまでコーヒー栽培は個人の小規模農園による実施が通常でした。フェアトレードの導入により、小規模の農家が集まって生産者組合を設立し、生産性向上への取り組みや営業活動を自分達の力で切り開いていくことが狙えます。いわばひとつの団体、会社のようなものができ、互いに切磋琢磨したり情報交換をしたりして、組織をどんどんと成長させられる可能性を持っているのです。
機材の購入や育成方法の研究などを実施し、より美味しいこだわりのコーヒーが生産されることでしょう。それはつまり、私達の手元に届くコーヒーがどんどん進化することにもなります。
社会貢献活動に参加を
世界中の貧困に苦しむ国々へ募金をしたり支援を行ったりという活動は、国内でも十分に浸透しており活動は活発です。
これらの活動とフェアトレードの商品を購入することは少し違います。外側からの支援金や支援物資ではなく、自分の労働という内側から生活を豊かにするサポートが実施できるのです。
4.フェアトレードコーヒーを手にとってみよう
何気なく口にするコーヒーは、生産者を始め多くの人の手を介して自分の手元までやってきます。そのコーヒーを購入する行動が、生産者の適正な生活環境の支援につながるフェアトレードは、非常に有意義ですね。フェアトレードの認証マークがついたコーヒー、ぜひ手にとってみてくださいね。