日本のコーヒー史に名を刻む
老舗カフェとブラジル農園の絆
日東珈琲 株式会社代表取締役社長 長谷川勝彦
日本のコーヒー史において欠かすことのできない店といえば、銀座のカフェーパウリスタだろう。移民政策の返礼としてブラジルから受け取ったコーヒーを日本で広め、日本のカフェ文化を作る礎となった。今回は、祖父の代から同店を引き継ぐ、現在の代表取締役の長谷川勝彦氏に、今なお繋がりの深いブラジル農園と作るコーヒーについて伺った。
日系ブラジル移民が作ったコーヒーを広めたカフェーパウリスタ
日東珈琲の前身であるカフェーパウリスタの設立には、ブラジルと日系ブラジル移民が深く関わっている。1900年代初頭、ブラジルは世界の50%以上のコーヒーシェアを持つ生産国だったが、奴隷解放によって農園の働き手を失い、世界各国から労働力を求めていた。同時期に日本は、人口増加による食糧不足が深刻化。その解決策として創業者である水野龍氏は、豊富な食料があるブラジルへ移民政策を計画し、793名の日本人とともに渡伯したのだ。
1910年、ブラジルは「コーヒーはブラジルで働く日本人移民の努力の結晶」として、年間1,000俵のコーヒー豆を無償で供与。東洋の一手宣伝販売権を水野氏に与えた。それは単なる日本へのお礼という名目だけでなく、新たなコーヒー市場を日本で作るよう水野氏が委託されたことでもあった。
日本でコーヒー販売を始めた水野氏だが、認知度のないコーヒーが売れるわけもなく、どう広めていくかを学ぶために、消費大国・ヨーロッパへ視察に出かけた。その時、老若男女が楽しそうにコーヒーを飲んでいたのがパリの人気店「カフェープロコプ」。水野氏は同店を参考にして銀座の「カフェーパウリスタ」を作った。
人々に愛されたカフェーパウリスタは日本初の全国チェーンへ
カフェーパウリスタは「5銭で、誰でも豪華で文化的な雰囲気に浸りながらコーヒーを飲める」と、庶民の間で話題になり、多い時には1日に5,000杯ものコーヒーを提供。また、当時の店は銀座の交詢社(福澤諭吉が提唱し、結成された日本最初の実業家社交クラブ)の向かいにあったため、新聞記者や文豪たちも多く訪れた。その評判から直営店を銀座、浅草、名古屋、神戸など全国に展開し、日本初のチェーン化を果たす。
しかし1923年の関東大震災で店は壊滅的な被害を受け、喫茶店を閉店。経営の主軸をコーヒー豆卸売業に移すこととなった。また、戦後、創業者の水野氏はブラジルに戻るため、焙煎担当で、経営幹部の一人でもあった長谷川主計氏が社長に就任。現在のカフェーパウリスタが再び銀座に出店したのは1970年のことだ。
想いを共有した契約農家とともに
美味しさと安全を追求したコーヒーを作る
ブラジルの契約農家と作る、農薬・化学肥料不使用のコーヒー
現在、代表取締役を務める長谷川勝彦氏は主計氏の孫にあたる。幼少の頃から祖父が焙煎する姿を見て育った勝彦氏は、自然とコーヒー業を意識していたのか、大学は上智大学のポルトガル語を専攻。交換留学で初めてブラジルの地に足を踏み入れ、夏休みを利用してコーヒー農園を訪れた。広大な農園の風景は息を飲むほどに美しく、そこから彼のあくなきコーヒー人生が始まった。
現在、生産国より直接20種類以上の生豆を輸入している日東珈琲。中でも力を入れているのが、ブラジルで農薬や化学肥料を一切使わずに栽培したコーヒーで作った「森のコーヒー」だ。手間のかかる農薬・化学肥料不使用を選んだのはなぜか?
もともとアラビカ種のルーツと考えられているエチオピアでは、森の中でコーヒーの木が育っていた。そこでは地中の生物が良質な土壌を作り、生態系のバランスが病害虫被害を防ぐなど、自然循環機能が働いている。一方、余計な森林を切り倒し、整備された農園でコーヒーを生産すると、生態系は崩れ、病気を防ぐために農薬などを使わざるをえなくなる。同社は自然農法を取り入れている農家を「森のコーヒー生産者」として契約。想いを共有した絆は強く、約30年以上の付き合いになる農園もあるという。
「コーヒーは加工度が低い飲み物。だからワインと同じで生豆の育つ環境がそのまま味に反映されます。店の独自性を出すために、生豆のこだわりを追求していきたい」と長谷川社長は話す。
新鮮なうちに焙煎・パッケージング
生豆を焙煎しているのは、千葉県にある日東珈琲の工場だ。1日約2.5トンの生豆を焙煎する焙煎機は1988年に導入したプロバット製の120 キロをメインで使用。釜の厚みによって、生豆に均一に熱が入やすく、安定した焙煎ができるのだという。
生豆は、石や金属などの不純物を取り除く工程を何度も経て、ようやく焙煎機の中に入る。焙煎後は焙煎度合いを数値化し、品質が均一に保てているかをチェック。工場では生豆の管理から焙煎、パッケージングまでを一気通貫で行うため、焙煎したての新鮮なコーヒー豆を作ることができる。
「コーヒーが持つストーリーをいかに伝えるか」がこれからの課題
日東珈琲が創業して100年余。昨今のコーヒー情勢を見て長谷川氏が感じていることは、日本の市場では、大手企業と小さなマイクロロースターの二極化が進んでいることだ。
日本のコーヒー史に関わりを持つ会社として、自社の位置付けをどうしていくのか、どのように生き残っていくのか……、長谷川氏が重要視しているのは「いかにコーヒーが持つストーリーを伝えるか」だという。「昨今はSNSや動画配信など、伝える手段が豊富にあります。それらをうまく活用して、お客様にコーヒーのストーリーも味わってもらいたいですね」と語る長谷川氏の言葉には、コーヒーへの愛情と尽きないチャレンジ精神が見えた。
Product商品詳細
日東珈琲森のコーヒー
(200g)1,188円(税込)※通販は200g×2パックから販売
- 価格は取材時点のものになります
日東珈琲の歴史と繋がりが強いブラジルの農園の中でも、農薬・化学肥料不使用に共感する生産者とパートナーシップを結び、美味しさはもちろん安全性も追求して作られたブレンドコーヒー。味、香り、ともに優れたバランスが魅力で、発売以来リピート率No.1を誇る。
Company会社情報
会社名 | 日東珈琲 株式会社 |
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住所 | 104-0033 東京都中央区新川2-9-5 第2中村ビル |
電話 | 03-3553-2341 |
FAX | 03-3553-0789 |
営業時間 | 9:00〜17:00 |
定休日 | 日、祝、第2・3・5土曜日 |
HP | https://www.paulista.co.jp/ |