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珈琲人名鑑

燃ゆる焙煎士魂
「人生に寄り添うコーヒー」を目指して

株式会社 パイオニアコーヒー工房代表取締役 橘川明子

1996年に神奈川県厚木市で創業したパイオニアコーヒー工房。2代目・橘川明子氏は、先代から受け継ぐ独自の技術「ダブル焙煎」を守りながらも、最新の焙煎理論や技術を取り入れ、「人の人生に寄り添うコーヒー」づくりに心血を注ぎ続ける。その焙煎士魂に迫った。

プロも認める、確かな技術と幅広い味づくり

1996年、パイオニアコーヒー工房は、先代である中野和典氏により業務卸専門のロースターとして神奈川県厚木の地に看板を上げた。その強みは、二段階に分けてコーヒー豆の焙煎を行う「ダブル焙煎」。昭和時代の喫茶店文化のなかで、コアなコーヒー好きたちから根強く愛されてきた手法の一つだ。

そんな古き良き伝統を受け継ぎながらも、最新の理論や技術を取り入れ、コーヒー豆の焙煎を極めんとする人物こそ、現・代表取締役の橘川明子氏だ。2012年に橘川氏がパイオニアコーヒー工房を継いでからは、小売販売と喫茶営業をスタート。今では、個人店はもちろん商社からの委託焙煎を担う他、業務用のオリジナルブレンドや自店でも毎月新たなブレンドを制作するなど、その味づくりの幅広さと豊かな表現力は多くのプロたちから厚い信頼を得ている。

焙煎士という職に魅せられて。目指すは「人生に寄り添うコーヒー」

店を継いで12年、橘川氏は「誰かの人生に寄り添うコーヒーをつくり続けたい」と語った。

「私が今焙煎士でいられるのは、さまざまな人に支えられてきたからです。いつも誰かが私に寄り添い、力を貸してくれたから今の自分がある。私も自分がつくるコーヒーで、誰かに寄り添いたい、恩返しがしたいと思っています」

もともと公務員だった橘川氏が焙煎士の道へと踏み出すきっかけになったのは、当時通っていたバーで出会った一杯のコーヒーだったという。味わい深くも、身体に吸い込まれいくような軽やかな飲み心地に、驚きを隠せなかったと振り返る。

コーヒー⋯⋯とりわけ、店ごと・コーヒー豆の産地ごとに味わいが異なることに魅せられ、いろいろな店に足を運んではさまざまな産地のコーヒーを飲み歩くように。同じ産地でも店によって、同じ店でも産地によって味が異なることを体感し、それを生み出す焙煎士への興味は日に日に高まっていった。根っからの体育会気質でありながら、公務員という安定した環境に身を置く自分に疑問を覚えるなか、マスターの紹介で、バーにコーヒー豆を卸していたパイオニアコーヒー工房での修業をスタートさせると、橘川氏の探究心はますますヒートアップ。日中は公務員の仕事を、深夜からはコーヒー豆を焙煎するというハードワークだったが、「コーヒー豆を焼くのがとにかく楽しくて仕方がなかった」と満面の笑顔を見せる。

伝統と進化。攻守一体で挑む
バリエーション豊かな味わい

ダブル焙煎で守る「いつまでも、何杯でも飲めるコーヒー」

橘川氏にとって“美味しいコーヒー”とは、自身が初めてパイオニアコーヒー工房のコーヒーを飲んだ時に感じた「いつまでも、何杯でも飲めるコーヒー」だという。口当たりや味わいはマイルドだが奥行きがあり、温度変化を経ても雑味がなく飲み疲れしない⋯⋯。そんな1杯を守るために、先代から継承するのが「ダブル焙煎」だ。

ダブル焙煎とは、端的にいえばコーヒー豆を二度焼く焙煎方法。一度目の焙煎では、それぞれのコーヒー豆の個性に合わせて火入れの温度や時間を細かく変えて味の骨格づくりをし、二度目の焙煎で、求める焙煎度まで仕上げを行う。間に一度釜から取り出して常温に戻すことで、焼き色や味が落ち着き均一化される他、二度焼くとやさしい味わいになるという。

2つの焙煎方法×複数の焙煎機の組み合わせが可能にする味わいのバリエーション

だが、橘川氏はダブル焙煎だけに執着するわけではない。あくまで届けたいのは、“人の人生に寄り添う”美味しいコーヒー。「学びを止めるわけにはいかない」と、J.C.Q.Aコーヒーインストラクター1級、さらにJ.C.Q.A商品設計マスターの資格を取得し、最新の焙煎理論や技術も積極的に取り入れ、クライアントやお客様が求める味に合わせて最適な方法を選んでいる。

さらにパイオニアコーヒー工房では、富士珈機製の半熱風式焙煎機・オールドR-110(昭和56年製)をメインに、同社製の直火式焙煎機・R-105など、火入れの方式が異なる焙煎機を複数使用。全体的にやわらかな味わいの時には半熱風式を、スッキリとメリハリのある味わいの時には直火式をと、焙煎機によっても味わいの違いをつくり出す。

「同じコーヒー豆を同じ焙煎度で焼いたとしても、ダブル焙煎と通常の焙煎では味わいが異なりますし、焙煎機が違えばまた変わる。組み合わせ次第で、プロファイルの幅が大きく広がるんです。委託焙煎の場合は特に、明確なフレーバーの指定ではなく、おおまかなイメージでオーダーされることが多い。それを自分なりに噛み砕いて想像を膨らませながら、焙煎に落とし込んでいく。アプローチの方法が多いほど、幅広い味づくりが可能になるので、つくる側としても楽しいですね」

並々ならぬ努力が生んだ、高い技術と厚い信頼関係

ただしそれも、自らが描く味を着実に表現する高い焙煎技術があってこそ成し得るものだ。背景には、橘川氏の飽くなき焙煎への探究心と、並々ならぬバイタリティがあることを忘れてはならない。業界のプロたちがパイオニアコーヒー工房に厚い信頼を寄せるわけは、ここにあるといえるだろう。

それでも橘川氏は最後まで、「私は人に恵まれている」と話した。

「行き詰まった時には必ず誰かが手を差し伸べてくれて、チャンスに変わってきました。私にできるのはコーヒーづくりぐらいですが、そのコーヒーで恩返し続けたいと思っています」

Product商品詳細

株式会社 パイオニアコーヒー工房こよみ珈琲

(100g)900円(税込) 

  • 価格は取材時点のものになります

「二度と同じ時は来ない、一期一会」をコンセプトに、その年のその月ごとにつくるブレンド。季節の植物や花言葉、誕生石、気候、社会情勢などからテーマを定め、コーヒー豆の産地や焙煎度を変えながらイメージを味わいで表現する。2024年12月現在、95ブレンド目。

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Company会社情報

会社名 株式会社 パイオニアコーヒー工房
住所 243-0121 神奈川県厚木市七沢2182-1
電話 046-281-8761
営業時間 10:00〜17:00
定休日 日曜日、月曜日(祝日は営業)
HP https://pioneercoffee-factory.co.jp/
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